レア機材紹介!誰でも見学可能,KMGのPrusa MMU2S【3Dプリンター、ノウハウ、スタッフ自主制作】
FujimotoMorio | Posted on |
「誰でも見学できるMMU2Sの整備」
ライター:Fujimoto
3Dプリンターの部品を3Dプリンターで作っています.
なんのことかさっぱりわからないですが,一見さんでも「ようこそ歓迎!」なKMGで,マルチマテリアルな3Dプリンタを稼働させて,リアルで見ることができるようにしたいという謎の使命感に燃えたスタッフの備忘録です.
KMGではMMU2Sを動かす取り組みを継続しています.最近になってようやく環境を整備したり,大幅なカスタムを加えたりしたので,ここらで振り返りをしてみます.引用RepostはKMGにおける最も古い #MMU2S に関するtweet.MMU2S登場の翌年,まだ日本未導入でした. #MMU2 #Prusa #3Dprinting #3Dプリンター https://t.co/A7uzWsF8ev
— Kyoto Makers Garage 【公式】 (@kmg_kyoto) August 19, 2024
目次
第1章 - 諸言 - MMUは難しい
Prusa i3 シリーズは有名なので,わざわざ紹介するほどのこともないと思いますが,ノーマルのMK3S+は当スペースにおいてユーザさんが自由に利用できる設備としてオープンにしていますので,ぜひ使いに来てください.
一方,その公式オプションであるMMUについてはあまり知られていないのではないでしょうか.ざっとネットの海を見渡した感じですと,日本において具体的な言及までされているのはヨーヨーメイカー東方さん他何件か,片手で数えられるくらいです(本題とは少しずれますが,若干の狂気を感じる記事).東方さんのnote記事が素晴らしく,これさえ読めばMMU2を安定稼動させられること間違い無いでしょう.
そんなMMUですが,数多の課題があります.これは3Dプリンタの課題と言っても過言でない一般的なものと,MMUに起因する固有の課題の2種類に大別されます.
一つは,3Dプリンタ自体の難しさです.これには,
- CADやモデリングソフトの操作などの知見
- 3Dプリントに向いた設計に関する知見
- 熱せられた樹脂の流動特性や周辺雰囲気,特に温湿度特性の影響など材料一般の知見
- 摩擦や転がりの抵抗など機械一般の知見
等と多岐に渡る知見が求められることが理由として挙げられます.安価に入手できるようになったため,気になって買ってみた方もおられる3Dプリンタですが,購入されたら大概の方はまず3Dデータ共有サイト,PrintablesやThingiverseなどからデータをダウンロードしてきて出力してみるのではないでしょうか.ところが,なんか苦労するし,悪戦苦闘してセットアップして出力してみたものの,見た目も微妙でこれでは100均の方がコスパ良くね?となってしまった経験,ありませんか.パーソナライズされたデータを作成して出力することができるのが魅力の一つなのですが,そこに辿り着くまでに挫折する,というパターンですね.
二つめの,上記を越えたとしても、その先でぶつかることになるMMU(ここではMMU2,およびMMU2Sについて)に起因する固有の課題です.これには,
- 温度,テンションなど調整項目の多さ
- フィラメント経路
- スプール置き場
- エラーの多さ
- 上記3Dプリンタ一般の課題が拡大されて噴出する
があると思います.事実MMUに関するエラーは複雑多様で,その多くが調整起因であるにも関わらず,エラーメッセージはMK3の表示の問題もあり大変簡素でトラブルシュートが難解です.さらに,フィラメント経路やスプール設置にまつわる摩擦の問題と,それに伴うロードアンロードの安定性もあり,一筋縄ではいかないことが現実です.一説では,従順なMK3がMMUを装着することで一気に暴れ馬と化す,などとまことしやかに囁かれています.
#prusa #MMU2S で試しにPETGの羊を出してみました。うーん、なんだか微妙です。ポロポロゴミ出てますし・・・ #3Dprinting モデルは @printablescom のSheep (multi-material)を使用しています。 pic.twitter.com/PJFSQUFyJt
— Kyoto Makers Garage 【公式】 (@kmg_kyoto) September 21, 2024
第2章 - 手法 – 基本に忠実に
- eSun eSlik-PLA:成功.開封してからかなり経つ上,特段吸湿への配慮もしていなかったものの,ロードアンロードにおいてほぼ失敗したことがありません.
- eSun PLA:若干怪しいです.開封して結構経ったものばかり使っていたからかも知れません.
- eSun ePLA-ST:かなり怪しい.温度帯が普通のPLAより若干高いからかも知れませんが,出力中によく詰まります.
- eSun eTwinkling:失敗.混ぜ物の影響か,まともに成功した試しがありません.人間が張り付いてロードアンロードの補助をしてもかなり無理.
- eSun PETG:怪しい.温度が高いこともあり,早々にPLA主体に切り替えたが,詰まりがよく発生していた印象.
- Prusament PLA:成功.オフィシャルなので安定.もったいないのであまり試せておりません.
- KINGROON PLA:大概成功.最近安かったので買いました.意外といけてます.開けたばかりだからかも知れません.黒より白の方が安定してる気がします.
- kexcelld Mat PLA:成功.あまりたくさんは試していませんが,特に問題ないように見えます.黒を主に使用しています.
- PRIMASELECT PVA+:かなり怪しい.開封してかなり経つからか,すぐにボロボロになってしまい,ロードアンロードでの失敗多し.吸湿のせいか糸引きも多く,コンタクトサーフェス以外にかなり食い込んでいて微妙.実運用面だとPETGの方がサポートとして使いやすいかも.
如何にして #prusa に5つ以上のフィラメントを背負わせるか、試行錯誤が続きます。全ては #MK3S with #MMU2S をコンパクトに設置するため・・・ #3Dprinting @printablescom の Front 2kg Spool Holder for Prusa MK3S+ にinspairedされました。 pic.twitter.com/oUYgnJS8UN
— Kyoto Makers Garage 【公式】 (@kmg_kyoto) September 7, 2024
#prusa にフィラメントをたくさん背負わせるためにオリジナルスプールホルダーを作成しています。構造、パーツ分割、組立性、運用性など、機械設計技術者としてのノウハウと、maker spiritsで結構なものが出来上がりつつあります。完成したら @printablescom で公開しますね! #3Dprinting #MMU2S pic.twitter.com/G7h5yEJe3W
— Kyoto Makers Garage 【公式】 (@kmg_kyoto) September 9, 2024
チューブ:PTFEチューブが基本ですが,そのまま買うのも高価ですし癪だったので,Prusa公式の情報を元に新しい材料を探してみました.PFAが温度や材料物性的に使えそうで,リーズナブルだったのでこちらを購入してみました.めちゃめちゃ余っているので,他の用途も考え中.PTFEに比べて若干柔らかい気がしますが,今の所ここ起因で大きな問題は発生していないと思います. 最後に,頻発するMMU2のエラーです.動かしながら背面を調整している際に不意に発生したり,原点復帰時のメカストッパ確認時に発生したりすることが多かったのと,エラー内容から接触不良か電源(電圧・電流)不足かを疑いました.てなわけで,”MMU2 voltage”などで検索してみましたら,出てくる出てくる,5V系の設計ミスか何かで,ダイオードによる電圧降下を考慮していない回路になっているようです.応急対策として,ロジック系の外部電源をUSB経由で供給することにしてみました.Githubにもありますが,完全な対策とはなっていないようです.これの(対症療法的)対策を施した”追加”基板がMMU3では付属するようです.つまりメインボードはそのままMMU2,MMU3とも共通です.なんやかんやで #prusa になんとか5つのフィラメントを背負わせることに成功しました。#MMU3 から流用した縦型のフィラメントバッファと合わせてこれで #MMU2S もコンパクトに設置可能になりました! #3Dprinting pic.twitter.com/xjUTdlK5KI
— Kyoto Makers Garage 【公式】 (@kmg_kyoto) September 12, 2024
第3章 - 検証 – とりあえず動かしてみる
気を取り直して、シンプルで背の低いモデルを出してみました。2色、3色、大きくして3色、4色と変えてみています。パージタワーの大きさがわかりやすいですね。 #prusa #MMU2S #3Dprinting #3Dプリンター 使用したモデルは @printablescom の HERRINGBONE PLANETARY GEAR を縮小しています。 pic.twitter.com/CwUck6Uboa
— Kyoto Makers Garage 【公式】 (@kmg_kyoto) September 22, 2024
背の低いモデルはできたので、3日かかる大きめのものを出してみています・・・が、何か色々怪しい・・・ #prusa #MMU2S #3Dprinting #3Dプリンター pic.twitter.com/shSXB2dIFY
— Kyoto Makers Garage 【公式】 (@kmg_kyoto) September 23, 2024
公式のサンプルなどを何色かで出力してみました. ロードアンロードで失敗しすぎて,対処方法に慣れました.パージタワーの存在感がすごい。3日程度のデータのハズが、7/14に出力開始して、終わったのがなんと8/18。時間かかりすぎてカウントバグってます。土日しか出勤してないので、エラーで止まって1週間放置もザラ。そしてパージタワーの質量たるや、本体の5倍強。エグい。 #MMU2S #PRUSA #skoda #enyaq pic.twitter.com/tnYrkywDeP
— Kyoto Makers Garage 【公式】 (@kmg_kyoto) September 23, 2024
- FINDAが反応しないタイプのロード失敗:RetryしてMMUの押し出しに噛むようにフィラメントを押し込んでやってください.フィラメントバッファが要らないな,と思える瞬間.
- FINDAは反応しているもののエクストルーダ側のセンサが反応せずロードが終わらずタイムアウトするタイプのロード失敗:MMUからは押し出されているのですが,途中で削れてしまったりして空回りしている可能性が高いです.削れているところを越えるようにフィラメントを押し込んでやってください.フィラメントバッファが要らない(以下略.
- FINDAが反応してエクストルーダ側のセンサも反応して一度はエクストルーダに引き込まれるのに,なぜか戻っていってしまうタイプのロード失敗:先端形状の問題であることが多いです.MMU-エクストルーダ間のチューブを外して(MMU側がおすすめ),Retryから出てきた先端を調整してやってください.途中で太くなったりしないよう.流線型にすれば大概問題ありません.
- アンロード失敗:Retryしてフィラメントを引っ張ってやってください.フィラメントバッファが(以下略.
- フィラメントを引っ張って,何ならMMUから抜けるレベルでもなぜかFINDAが反応しっぱなしのタイプのアンロード失敗:FINDAの部分にゴミが詰まっている可能性が高いです.MMU側のチューブを外して掃除してください.横の穴からダスターで空気ぶち当てるとかも有効だと思います.
- 時々中で折れてる問題:吸湿したフィラメントで発生します.取り除かないと致命傷になるので,MMU-エクストルーダ間のチューブを外して取り出してください.
第4章 - 結言 – MMU3に向けて
KMGでMMU2を実は2018年当初購入して,MK3の稼働などに余裕が出てきたこともあり,ここにきてようやく稼働させられました.ここからはノウハウの蓄積や発信を目指していきます.現在,フィラメントの吸湿,劣化問題を除けば,ほぼ安定して動いていると言える状態まで来ています.2024年時点で3Dプリンタ界隈に勃興してきているマルチマテリアルブームですが,2010年代後半からMMUに取り組んできた先駆者とも言えるPrusa MMU2です.ぜひその目で動いているところをご確認いただければと思います.きっとマルチマテリアルを活用したアイデアにつながることでしょう.
一方,公式からは既に諸々の対策を施した改良機であるMMU3が発売され,日本にも来るかどうかと言うところです.公式には日本未投入のままだったMMU2に対し,品質が安定したMMU3が今後公式から日本投入されたら(もちろんしなくても)是非入手して,何がアップデートされたのか,検証して共有したいところです.
最後に,もしご自身でMMUを使用されるのでしたら・・・
実は答えは転がっています.奇を衒わず基本に忠実にしましょう.物理には逆らえません.
ヨーヨーメイカー東方さんの記事に課金するのが近道です.
Appendix - 質疑応答 – 素人質問ですがよろしいですか?
質問募集中.随時更新.
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MMUを何と呼べばいいのか
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エムエムユーと呼びます.Multi Material Upgradeの略称ではありますが,製品名称なので記事中ではそのままMMUと表記しています.PrusaのMMUシリーズを総称して,文中では主にMMUと表記しています.(メモリ管理ユニットはMemory Management Unitですね.)
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そもそもMMUを使うメリットとは、表現の幅が広がるだけ?
- 名前の通り,複数の材料が使用できることがProsとなります.これは色を複数扱えるという外観重視な点から,異なる材料を使用できるという機能重視な点まで,幅広いものです.
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MMUとMMU2(MMU2S)の違いは?
- PrusaのMMUはMMU1,MMU2,MMU2S,MMU3と進化しています.本記事で扱っているMMUはMMU2Sですが,PrusaのMMUシリーズであれば基本的に共通する知見であると言えるでしょう.MMU1はボーデンチューブの構成がMMU2以降と比較して煩雑に見えます.似た製品で最近有名なのは,BambuLabsのAMSです.これはAdvanced Material Systemsの略称で,1台で4色が扱える乾燥機付きの優れたものです.
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別のマテリアルを組み合わせることは可能?
- そのためのMulti Materialです.例としてよく挙げられるのが,SupportのInterfaceのみをPVAで出力し,出来上がったものを水洗することで仕上がりをきれいにしようというものです.最近ではPVAの扱いづらさから,PLAで整形する際のInterfaceにPETGを使用する傾向が見られます.また,一つのパーツの半分をPETG,もう半分をPLAといった出力も可能ですが,何も考えずに異なる種類のプラスチックを組み合わせると,接合部分の強度が著しく低下するので,結合方法に工夫が必要です.一方,赤と青を比率で混ぜて出力したり,硬軟取り混ぜた材料を出力したりなどは不可能です.あくまでも,フィラメントとして存在するものを切り替えて出力するためのものです.
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MMUの加工時間はどのくらいかかる?だいぶ遅くなる?
- 遅くなりますが,どのくらい遅くなるかは材料を変更する回数,方法によります.積層に合わせた材料変更が多いものと,積層内での変更が多いものでは倍以上の差が出る場合もあります.気になった方はスライサの設定だけで確認できますので,ぜひ試してみて下さい.難しければ,KMGにご来店いただき,スタッフに気軽に相談して下さい.本記事を執筆したFujimotoは主に土日に勤務しています.
- その他用語など
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バネのヘタリ:バネは弾性変形範囲で応力をかけている間は基本的に素性変形しません.ただし素性変形をしてしまう範囲の応力がかかった場合や,弾性変形範囲であっても高サイクルの応力振幅が生じた場合に,バネ自体が素性変形し,かけた力とひずみが描く経路(S-S曲線)が初期状態から素性変形分ひずみがシフトした状態になります.これを俗称として「バネがヘタる」と呼称したりします.ヘタったバネだと,マニュアル通りの調整をしても緩くなってしまいます.大切なのは締込みトルクなので,初期状態の締込みでのトルクを元に,使い込んだバネでも調整を行うことが求められます.
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スプール:フィラメントが巻かれている丸いやつ.ボビンとも.
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PRIMASELECT PVA+:PVA(要はのり)フィラメントの名前.
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フィラメントバッファ:MMUは材料を変更する際にボーデンチューブ分のフィラメントを出し入れすることになります.材料返納のために一時的に排出されたフィラメントを適切に処理しないと,他に排出されたフィラメントと絡まることがあるので,マネジメントのためにMMUで採用されたのがフィラメントバッファです.MMU2ではスプールホルダとフィラメントバッファの占有面積が大きく,フットプリントの増大を招いています.MMU3でもフィラメントバッファを縦置きにしたことで多少のコンパクト化に成功したものの,依然フットプリントは大きいです.詳細は第2章のスプールホルダの項をご参考のこと.一方で,適切な経路を通り,排出されたフィラメント同士が絡まらないのであれば,不要となります.
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背面を調整:MMUはフィラメントをプリンタ正面から見て背面から引き込みます.押し引きなどをする際に背面側を触ることも多いでしょう.MMUへの配線に触れることも多くなるはずです.
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FINDA:MMU側にあるフィラメント検知センサです.これをフィラメントが蹴ることでMMUからフィラメントが出ていった,MMUがフィラメントを回収した,の判断を行います.
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【運営】
Monozukuri Ventures (https://monozukuri.vc/ja/)
Monozukuri Venturesは日米に拠点を持つハードテックに特化したベンチャーキャピタル。投資に加えて試作量産化や事業開発を支援する専門チームを有しており、世界中の起業家やスタートアップが高品質の製品を、少量でも素早く生産・販売することができる世界の実現を目指し、京都・ニューヨークで活動している。アントレプレナーシップの醸成についても取り組みを行っており、小学生・中学生向けのワークショップも実施。Kyoto Makers Garageは試作や教育の拠点です。